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個性派を作出し、バラの世界を広げていく。『やぎばら園』静岡・菊川|知りたい! 花産地のこと Vol.5

個性派を作出し、バラの世界を広げていく。『やぎばら園』静岡・菊川|知りたい! 花産地のこと Vol.5

中心にグリーンのしべが見える、くすみ感のある花色、独特な花形…と、新しい感覚の、個性的なバラが、近年評判です。そんな個性派バラを、次々と世に送り出しているのが、静岡県の『やぎばら園』。同園の八木勇人さんに、農園のこと、育種のことをお聞きしました。

バラの育種と生産をする、やぎばら園

ラロック、ヴァーズ、HANABIなど、個性的な人気品種を作り出しているのが、静岡県菊川市にある、やぎばら園。切り花のバラ生産量、国内第2位の静岡県は県内にバラ産地が点在し、菊川市もその主要生産地のひとつです。バラに囲まれて育った八木勇人さんは、やぎばら園の2代めです。

ハウス入り口にあるタンクに描かれているのは、バラを手にしたやぎばら園のヤギ。くすっと笑える、ほのぼのとしたキャラクター。八木さんのデザインです。

現在3000坪の栽培面積をもつ、やぎばら園。八木さんは、生産と育種をする父、恒夫さんのもとで仕事を始めてから数年たった頃に、SMAPのヒット曲「世界に一つだけの花」(2002年リリース)に出合います。「どこへ行っても流れていた曲。今、思うと、あのときの“オンリーワン”の花という言葉が、心に響いていたんですね」と八木さん。

彼はそれからさらに育種に力を注ぎ、現在、やぎばら園の扱うおよそ40品種は、ほとんどが同園だけが作るオリジナル。家族やスタッフとともに、年間100万本のバラを生産しています。

オリジナル品種は、こうして生まれます

魅力的なオリジナルのバラを作り出す同園では、どのようにして新品種が誕生するのでしょう。わかりやすく説明してもらいました。

まず、交配してできたバラの実から種を取り出します。ひとつの実から採れる種は10~20粒。この種は、まいてから約3か月で発芽します。

まるでモヤシのような姿ですが、実生のバラの誕生です。それぞれ異なる性質をもったバラたちは、すくすく育っていきます。

種をまいてから約1年後、実生の花が咲き始めました。このバラのなかから、有力なバラを選び、2、3年かけてふるいにかけていきます。1万粒の種をまいて、最終的に新品種として残るのは、たったの2~3品種。花のよしあしはもとより、生産性はどうか、耐病性はあるかなど、見極めながらセレクションしていきます。

新品種としてデビューが決まると、苗木を作ります。大きく育てた新品種の枝をカットし、野バラの台木に接ぎ木して苗木にします。

できあがった新品種の苗。1品種で500~1000個のポットに植えつけます。

ポットで元気に育った苗木は、春(4・5月)に定植。2か月経つと、バラはつぼみをつけ始めます。

その後、新品種を1年間テスト出荷します。花屋さんを訪ね、また、SNSで一般の人たちにも新品種の情報を発信。その反応を、品種決定の判断基準のひとつにしているそう。

「絞り込んたバラで本当にいいのか、落とそうと思う品種にいいものがあるかもしれない…。ぼくの好みだけでは決めかねるので、花屋さんの意見やSNSで得る反応は大切なんですよ」

ちょっとしたこちらの言葉にも、「ああ、そうなのかな、そうかもしれない…」と、すくい取るように丁寧に応えてくれる八木さん。花屋さんや花を楽しむ人たちの感想や意見に、しっかり耳を傾けています。

こうして長い時間をかけ、選び抜かれてデビューする新品種。まさに、八木さんが手塩にかけた、オンリーワンのバラたちなのです。

楽しみながら伝えたい。魅力あるバラの世界

同園の代表品種、ヴァーズやラロックをテスト出荷し始めたのは、2012年ごろ。「じつは、枯れている!とか、怒られてこともありました」と、当時を振り返る八木さん。

ヴァーズ

ラロック

新奇なバラはすぐには評価されませんでしたが、気持ちが折れることはなく、自分がいいと評価したバラを作り続けた八木さん。いつしか、独特なバラは、おもしろい、斬新といわれ、かわいい!とまで言われるように。豪華なバラ、エレガントやキュートなバラでは描けなかったものを、個性的なバラたちが表現してくれたのでしょう。

「バラらしくないバラが評価されるようになりましたが、そういう個性派は少数派。うちで生産するバラ全体の8割は、みんなに好まれる色や形、正統派のバラなんですよ」。

おもしろいバラ、個性派に限って生産性が劣ったり、弱かったり。実際には、そうたくさんは作れないそう。確かに、同園の人気品種、ヤギグリーン、ヤギパープル、フラッフィなどは正統派。きれいな花色や花形、芳香のバラたちです。

ヤギパープル

フラッフィ

「個人の農園だからできるおもしろいバラを、これからも作っていきたいですね」。毎年数品種の新しいバラを世に送り出す、やぎばら園。斬新で個性的なバラ、だれからも愛される正統派。どちらも楽しみです。

Data:やぎばら園
ブログ/http://yagibara.i-ra.jp
所在地/静岡県菊川市

花・落合惠美、宮﨑慎子 撮影・落合里美、八木勇人 構成と文・瀧下昌代

この連載について

知りたい、花産地のこと

素敵な花はどこで、誰が作っているのでしょう。花を見るだけではわからない、産地や作り手のことをお話します。人気の品種や、その花にまつわる最新ニュースも。これを読めば、もっと花が好きになる!?