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伝統美を引き立てる、シンプルな“花”に注目。『リッツ パリ』|パリ発、季節の花だよりVol.3

伝統美を引き立てる、シンプルな“花”に注目。『リッツ パリ』|パリ発、季節の花だよりVol.3

世界に名を轟かせる名門ホテルは数あれど、『リッツ パリ』ほど魅惑に満ちたホテルはないといえます。ファッションデザイナー、ココ・シャネルが住まいとしたホテル、ダイアナ元妃が人生の最後の時間を過ごしたホテル。他には、アーネスト・ヘミングウェイ、チャーリー・チャップリンなど、昔も今も多くの著名人を顧客にしています。パリ1区のヴァンドーム広場に面した世界唯一の「パラス」(フランスのホテル格付けにおける最上級クラス)には、現代の神話が生き続けています。 © Vincent Leroux

©Vincent Leroux

赤~ピンクのグラデーションで、エントランスは印象深く

1898年創業の『リッツ パリ』が、歴史的リニューアルのために休館したのは2012年。由緒ある館の魂を後世に伝えるために、大きな変化をあえて行わず、伝統を重んじて進められた工事は、リニューアルとしては異例のアプローチでした。 4年という歳月をかけて完成したことからも、再現の困難な伝統継承への熱意が想像できます。見た目や雰囲気はそのまま、伝統を大切に守りながら、現代的な要素を取り入れ、『リッツ パリ』は2016年に再オープンを果たしたのです。

フランスには、超高級ホテルを意味する「パラス」という称号があります。「パラス」は、5ツ星ホテルの中でもさらに、恵まれた立地、歴史的・美的あるいは文化遺産としての特異な価値、利用客のニーズに応じたサービスを誇る秀逸なホテルに与えられる特別な称号。パリには現在、10軒のパラス認定ホテルがあり、『リッツ パリ』もそのひとつです。

2016年のリニューアル以来、『リッツ パリ』全館の花を手掛けているのは、フローリストのアンヌ・ヴィシェンさん。

「パリのパラスの花は、男性フローリストが担当していることが多いでしょう? 花は女性的な素材なのに、不思議ですね」

そう語るアンヌさんが生み出す花世界は、女性らしい柔らかさ、軽やかさ、自由なエスプリに溢れていました。彼女にとって、フローリストの主張は重要ではないようです。そんなアンヌさんの仕事ぶりに、「ルイ・ヴィトン」や「パルファン・クリスチャン・ディオール」など、フランスを代表する老舗メゾンが惚れ込んで、花を依頼してきました。

ホテル専属フローリストとしても、『オテル・ド・クリヨン』や『ル・ロワイヤル・モンソー・ラッフルズ』の花を手掛けてきたアンヌさん。『リッツ パリ』では、空間ごとにそれぞれ、ストーリーを描き、季節の花で表現していると言います。

ゲストが最初に出会うアンヌさんの花は、深紅のカーペットが映える『リッツ パリ』ならではのエントランスを飾るアレンジ。だいたい2週間ごとに、そのスタイルは変わります。

「お客さまがホテルで最初に目にする花は、赤をベースに、ピンクから赤紫色の花を選んでいます。ヴァンドーム広場から入ってきて、印象を一転して変えてくれる色、白い石材の壁に囲まれたスペースに映える色の花を飾ることが、エントランスでは求められています。私が好きな色ということもありますが、今では、このグラデーションがすっかり、お迎え花の定番カラーになりました」

取材をした5月後半に、使用されていた花はシャクヤクと、エルムレスなど。シャクヤクは、コマンドパフォーマンス、ピンクハワイアンコーラル、フレームの3種類を組み合わせることで、色みに奥行きを出しています。差し込んだグリーンの要素が、エアリーな軽さと動きを演出。

「この軽さと動きがポエジーなのです。“モダンなポエジー”。私は自分のアレンジを、いつもこう言い表しています」

そのモダンなポエジーを美しく保つために、『リッツ パリ』の地下のアトリエには、なんと毎日2000本の花が搬入されています。アンヌさんを含め、4名の専属フローリストたちは毎朝5時に館内を点検し、必要であれば花を入れ替え、アレンジを完璧に整えてお客さまを迎えるのだそう。

アンヌさんのこだわりは、花だけではありません。今回使った、写真の花器の色はゴールド。エントランスと色調を合わせ、黄色みを抑えたゴールドになるよう、市販の花器を塗りなおしてカスタマイズしています。

新しい顔となったティールームの花はクラシックに

©Vincent Leroux

こちらは、『リッツ パリ』の顔でもある中央回廊。気品あるロイヤルブルーのカーペットが、白を基調とした空間によく映えます。この廊下の、写真右手に新設されたのが「サロン・プルースト」です。

©Vincent Leroux「サロン・プルースト」は、リニューアル後にサロン・ド・テとして誕生したスペースです。『リッツ パリ』を愛した作家マルセル・プルーストの名を冠し、内装も落ち着く書斎風。マドレーヌと紅茶の、フランス流アフタヌーンティーが楽しめます。

「クラシックな空間だから、花もクラシックなアレンジがふさわしい。盃型の大ぶりな花器に、シャクヤクをたっぷりといけました。ただそれだけでは印象が重いので、グロリオサを差し込んで動きの要素を加えています」とアンヌさん。

大ぶりなアレンジと焼き菓子がセットされた中央のテーブルのワンシーンは、まるで17世紀に描かれた一幅の絵画を観るよう。「サロン・プルースト」は、『リッツ パリ』の新しい顔となっています。

エントランスと「サロン・プルースト」の花材は今回は同じでしたが、これは館内に統一感をもたせるためではなく、季節の花を使って、空間に合わせたあしらいをしただけとのこと。アンヌさんの館内デコレーションの哲学です。

歴史的建造物に映える“白”。優雅さ、高貴さを演出します

前述したとおり、アンヌさん曰く、『リッツ パリ』で大切なことは、あくまでも空間ごとのストーリーをリスペクトすることで、花の統一感にこだわる必要はないのだそう。そのアンヌさんの考えは、メインダイニングでもある、二つ星レストラン「レスパドン」に入ると、一気に理解できます。

パステルカラーの天井画、それを縁取る黄金のレリーフ、燦然と輝くシャンデリア…。バロックスタイルのレストランの中央には、 白一色でまとめられた花が飾られていました。使用している花材は、アジサイ、ビバーナム、アガパンサス、カラー。優雅さ、清楚さ、そして高貴さを演出するアレンジです。

色は混ぜずにシンプルに。アレンジには動きを出して。ここにもアンヌさんのポリシーが、しっかりと形づくられていました。

「レスパドン」の先には、『リッツ パリ』が誇る中庭があります。ヴァンドーム広場に面した館に、こんなに広々とした緑の空間が隠されているなんて!

中庭は庭師の管轄で、アンヌさんはノータッチとのことですが、クリスマスのインスタレーションは彼女の仕事。また、花壇の花を選ぶときに意見を求められることもあるそうです。

「中庭の花は、季節を通じて白一色と決まっています。白バラ、白いゼラニウム…。中庭に立つと、とてもいい匂いがするでしょう? これはスイカズラの香りですよ」

中庭に面した客室の壁面はスイカズラの蔦で覆われ、5~6月は小さな白い花が満開になります。香水にも使用されるスイカズラは、ジャスミン同様に、フランス人にとってなじみ深い植物です。

この中庭では、日曜日のブランチのほか、「リッツ・バー」のランチがサーヴされます。ときには、ウエディングのテーブルがセットされることも。

『リッツ パリ』では、すべての時間、すべての空間が、夢のように美しくあるよう、約束されているのでした。

Profile角野恵子 Keiko SUMINO-LEBLANC

この連載について

パリ発、季節の花だより

花からパリの今が見えてくる! 注目のトレンド、人気のホテルやお店、公園など、フレッシュな“花のパリ”情報をお届けしています。日本とはひと味もふた味も違う、美のエッセンスをどうぞ。